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ゼラチンってなに?
「コラーゲン」という言葉を耳にしたことはありませんか。ゼラチンは脊椎動物の骨や皮などに多く含まれるコラーゲンから精製・抽出した無脂肪の動物性たんぱく質です。煮魚をつくった時に、煮汁が冷えてゼリーのように固まった「煮こごり」を目にしますが、これも魚のコラーゲンが加熱によってゼラチンになり、煮汁に溶けだして固まったものなのです。すじ肉の煮込みやとんこつスープでも同じようなことが起こります。ゼラチンって、とっても身近な食材なんですね。
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コラーゲンって?
コラーゲンは、動物の体内にもっとも多く含まれるたんぱく質です。人間は体重の約16%がたんぱく質といわれていますが、そのなかの20〜40%がコラーゲンといわれています。特に、皮膚の40%(皮膚組織の真皮(水分を除いた状態で)に70%)、骨の20%を占め、他に血管や内臓、目、脳などいたるところに分布しています。コラーゲンは、細胞と細胞、組織と組織をつなぐ接着剤のような役割を果たしており、体の若々しさと健康の維持に関係しています。さらに最近では、細胞を増やしたり、傷口を早く治したりなどの生体活動にもコラーゲンが大きく関わっていることがわかってきました。
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コラーゲンは体のなかでどんな働きをするの?
体の若々しさと健康づくりに役立つコラーゲン。具体的な働きとしては「関節痛を緩和し、円滑な動きをもたらす」「骨を強く、しなやかに保つ」「肌に張りを与え、潤いを保つ」「消化器官を保護する」「血圧の上昇を抑制する」などが挙げられます。スポーツの分野では、関節などのケガの予防・治療促進に役立てる研究が進んでいます。高齢化社会を迎え、コラーゲンの重要性は、ますますクローズアップされることでしょう。
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どう違うの?ゼラチンとコラーゲン。
ちょっと難しいお話になりますが、コラーゲンの構造をミクロに見ると、らせん状の細長い分子が3本より合わさり、三つ編みのような形になっています。このコラーゲン分子に熱をかけると、3本の分子がはずれバラバラの状態になります。これがゼラチン。コラーゲンとゼラチンは、分子レベルに違いがあるものの、食品として摂取する分には同じと考えてかまいません。最近、健康食品の分野でたいへんな注目を集めているコラーゲン。ゼラチンを食べて、体のなかに摂り入れましょう。
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ゼラチンには、どんな栄養があるの?
ゼラチンは、コラーゲン由来のたんぱく質が約90%含まれる高たんぱく質食品です。ゼラチンのたんぱく質は18種類のアミノ酸で構成され、トリプトファン以外の必須アミノ酸、中でもお子さまの成長に欠かせないリジンをたくさん含んでいます。おまけに消化吸収されやすく、一緒に摂取された食物の消化吸収を助けるという働きもあります。離乳食や幼児食のほか、病気や疲労で胃腸が弱っているときなどに大いに活用したい食品です。
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ゼラチンを使うと、どうしてゼリーができるの?
まずは、専門的なお話から。ゼラチンの基本構造をみると、約1000個のアミノ酸が細長い鎖状に並んでいます。ゼラチンを熱い液体のなかで溶かすと、網目状の構造がこわれ、分子が自由に液体の中を動くようになります(この状態をゾルといいます)。次に、液体の温度を下げていくと、分子の運動は不活発になり、分子同士が引き合って、弾力性のある網目状の構造をつくります(これをゲルといいます)。このように熱すると溶けて液体(ゾル)に、冷やすと固まってゼリー(ゲル)といった変化が、加熱−冷却によって繰り返されます。これがゼラチンの不思議であり、最大の特性なのです。
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ゼラチンはどうやって作られるの?
ゼラチンは、原料の不純物除去から始まり、抽出後の十二分な精製、そして各工程における厳密な検査体制など、徹底した衛生管理のもと、製造が行われています。原料を「アルカリ」「酸」いずれで前処理するかによって、製造方法は大きく2つに分かれますが、抽出以降の工程は同じです。
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他のゼリー材料との違いは?
ゼラチンのように、ゼリーをつくるための食材を「ゲル化剤」といいます。以下に、代表的なゲル化剤とその性質についてまとめてみました。
ゼラチン
寒天
カラギーナン
ペクチン
原料
動物の骨・皮
紅藻類
紅藻類
柑橘類、果汁搾汁残物
主成分
たんぱく質
炭水化物
炭水化物
炭水化物
食感
口内で自然に溶けるので、なめらかな舌ざわり。弾力性、粘りがある。
口内温度で溶けない。かたい、弾力がない、砕けやすい。
ややかたいが、ゼラチンゼリーに近いなめらかさがある。
HM;かたくてなめらかさがない。
LM;ソフトで滑らか
溶解温度
50〜60℃
予め水で膨潤
80℃以上
予め水に浸漬
80℃以上
〜100℃
水の硬度による。
ゲル化
開始温度
18〜20℃
濃度により異なる。
30〜40℃
濃度により異なる。
30〜60℃
可溶性固形分含量により上下する。
30〜85℃
種類、pH、糖度、その他条件により異なる。
ゲル化
完了まで
10℃以下の冷却が必要。8〜18時間でほぼ安定。
常温で可。5〜24時間でほぼ安定。
常温ですみやかにゲル化し、安定。
常温で可。
透明性
透明
白いくもりあり
透明
白いくもりあり
消化吸収
非常に良い
されない
されない
されない
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ゼラチンはいつ頃から使われているの?
ゼラチンのルーツは、今から5000年以上前、古代エジプトの「にかわ」製造にあるといわれています。基本的な製法は、すでにこの時代に出来あがったとみられ、6世紀頃の中国の記録には、ほぼ完成された技法が残されています。現在、日本で受け継がれている伝統的技法も約1500年前のものとほとんど変わりがありません。このように紀元前の昔から人々の暮らしとともにあり、21世紀のこんにちもその有用性を保っている素材は他に類を見ません。ゼラチン(にかわ)は長らく接着剤として使用されてきましたが、ヨーロッパでは19世紀初めから食用(ゼリー)に使われ始め、19世紀も後半になると写真乳剤として応用されるようになります。その後、ゼラチンの研究開発も進み、さまざまな特性と使い勝手の良さを活かし「
食用
」「
医薬用
」「
写真用
」「
工業用
」と、たいへん幅広い分野で活用されています。
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ゼラチンはどれぐらい使われているの?
ゼラチンの世界全体の生産量は約27万トンといわれており、その内訳は約70%が食用で、医薬用20%、写真用10%とみられています。地域別ではヨーロッパが全体の45%を占め、次いで北米、アジア、南米、その他の地域の順になっています。日本でのゼラチン販売数量は約2万トン。用途別割合では食用42%、医薬用23%、写真30%、工業5%となっています(平成12年度)。日本は欧米諸国に比べて、食用の割合が低くなっています。でも、口中の温度で自然になめらかに溶け、同時にゼリーの冷たさも感じられるさわやかな食感・おいしさは、“ゼラチンならでは”。これからもっといろいろな場面で、ゼラチンの登場が増えてくることでしょう。